衆議院議員 井上義久
平成10年9月29日提出
質問第17号 脳外傷者の実態と公的支援に関する質問主意書
提出者 井上義久

脳外傷者の実態と公的支援に関する質問主意書
 不慮の事故等によって脳を損傷し、その後遺症に悩むいわゆる脳外傷者の多くは、既存の医療や福祉制度では適切な治療・支援が得られず制度の谷間におかれている。
 脳外傷者は、高次脳機能障害と総称される空間認知障害、見当識障害、記銘力障害、意欲注意力障害等々の障害を併発する場合が多いが、これら高次脳機能障害は外見から障害が判別しにくいこともあり、障害に対する社会的認知度も低く、障害の判定基準も確立していない。医学的には、脳外傷者・高次脳機能障害者に対するリハビリテーション・システムの確立が喫緊の課題であるが、現行の診療報酬制度では医療機関が脳外傷者へのリハビリテーションに専門的に取り組めば取り組むほど病院財政を圧迫するシステムとなっており、リハビリテーションアプローチを試行している先駆的医療機関に対する財政的な行政支援も行なわれていない。一方福祉制度においても、脳外傷者・高次脳機能障害者は、身体障害者としても知的障害者としても救済されず施設入所やヘルパー活用等の福祉制度の対象にならないケースが多く、その負担は患者とその家族が担っているのが現状である。
 脳外傷者の主な受傷原因と考えられる交通事故については、救命救急医療の進歩等によって死者数は毎年1万人前後で抑えられているが、事故発生件数、負傷者数は昭和52年以降増加し続けており、平成9年度の交通事故件数は780.399件、負傷者は958.925人の多きに上っている。また同年の死傷者・損傷主部位別統計によると、脳外傷に直接的に関係すると考えられる頭部損傷だけでも、死者は5.014人、重傷者(治療30日以上)は11.662人、軽傷者(治療30日未満)は92.408人にも上る。受傷後の体系的な追跡調査が行なわれていないため脳外傷者の発症実態は不明だが、交通事故による脳外傷者だけでもかなりの多人数に上り、その数は増加の傾向にあると推定される。
 これら救命救急医療の進歩や交通事故負傷者の増加等の現状を考えるとき、いわゆる脳外傷者の実態把握と医療及び福祉における公的支援制度の確立は緊急を要する課題だと考える。
 従って、次の事項について質問する。
一、脳外傷者の実態調査を早期に実施すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。少なくとも交通事故を受傷原因とする脳外傷者については、交通統計など統計調査の基礎があることから、早急に実施すべきと考えるがどうか。

二、脳外傷者・高次脳機能障害者に対する医学的・職業的・社会的リハビリテーション・システムの構築が強く要請されている。これらのシステムを構築するための研究に早急に着手するとともに、先駆的に脳外傷者に対するリハビリテーションを行っている医療機関に対して、適切な助成事業を行うべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三、脳外傷者の障害実態に沿った障害認定方法の確立と福祉制度の改善が望まれるが、当面、同患者及び家族の負担軽減を図るため、施設入所条件の緩和など現行制度の柔軟な施策運用を行うべきと考えるが政府の見解を伺いたい。

四、介護保険法では、介護サービスが受けられる条件として加齢疾病条項が定められているが、脳外傷者の場合、この条項により介護サービスの対象にならない。保険料を納めながら給付が受けられない不平等を是正するため、同条項を撤廃すべきだと考えるが政府の見解を伺いたい。

右質問する。

平成10年10月27日受領
答弁第17号

内閣衆質143第17号
平成10年10月27日
内閣総理大臣 小渕恵三

衆議院議長 伊藤宗一郎殿

衆議院議員井上義久君提出脳外傷者の実態と公的支援に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員井上義久君提出脳外傷者の実態と公的支援に関する質問に対する答弁書
一について
  ご指摘の警察庁が毎年作成している交通統計においては、交通事故による死者及び負傷者のうち主たる損傷部位が頭部であるものの数を把握しているが、脳外傷者については厚生省が3年ごとに実施している患者調査において、特定の調査日における全国の医療施設で受療した脳外傷(後遺症を含む。)の患者数を推計しているところである。厚生省においては、精神薄弱者対策及び老人対策の対象とならない若年痴呆者(18歳から64歳までにおいて高次脳機能障害等の痴呆症状を生じた者をいう。以下同じ。)の実態について平成八年度の厚生科学研究費補助金による研究課題として「若年痴呆の実態に関する研究」を取り上げたところであり、当該研究においてご指摘の脳外傷者の実態についても調査を実施したところである。

二について
  厚生省においては、平成10年度の厚生科学研究費補助金による研究課題として「若年痴呆の処遇のあり方に関する研究」を取り上げ、当該研究において御指摘の脳外傷者・高次脳機能障害者に対するリハビリテーションシステムを含めた具体的な支援策に関する研究を行っているところである。
  また、労働省においては、職業リハビリテーションに関して、日本障害者雇用促進協会が平成8年度から行っている「頭部外傷者の障害特性と就労支援に関する研究」及び平成9年度から行っている「高次脳機能障害を有する障害者の職場復帰後の指導・援助に関する基礎的研究」に対し交付金の交付を行っているところである。
 御指摘のリハビリテーションシステムの構築及び助成事業の実施の必要性については、これらの研究成果を踏まえて検討してまいりたい。

三について
 脳外傷者の施設入所の運用については、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)又は精神薄弱者福祉法(昭和35年法律第37号)にいう身体障害者又は精神薄弱者に該当しない者は当該法律に基づく身体障害者更生援護施設又は精神薄弱者援護施設への入所措置の対象とはならないこととされているが、脳外傷者のうち高次脳機能障害者が該当する精神障害者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「精神保健福祉法」という。)にいう精神障害者をいう。)に関して平成9年12月に身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会及び公衆衛生審議会精神保健福祉部会の合同企画分科会において取りまとめられた今後の障害保健福祉施策の在り方についての中間報告において、「身体障害を伴わない高次脳機能障害(若年性痴呆等)については、精神保健福祉法において必要な福祉サービスを充実すべきである。ただし、当面、精神薄弱者に類似した障害の状態にある者については、精神薄弱者施設等の利用を行えるようにする方途も検討すべきである。」との指摘があったことを踏まえ、引き続き検討してまいりたい。

四について
 介護保険制度は、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、介護が老後生活の最大の不安要因となっていることを踏まえ、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となった場合に保険給付を行う制度であり、給付の対象は、同法第7条第3項において、要介護状態にある65歳以上の者のほか、要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であってその要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下「特定疾病」という。)によって生じたものとされている。これは、特定疾病によって生じた要介護状態については、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病という共通の事由による保険事故と考えられること等から介護保険制度に基づく介護サービスにより対応することとし、特定疾病以外の疾病等によって介護を要する状態になった者については、障害者福祉施策等の枠組みの中で対応することとしたことによるものである。
 そのため、御指摘の加齢疾病条項については、現在のところ撤廃することは考えていないが、介護保険法附則第2条に基づき、法施行後において、障害者の福祉に係る施策との整合性等に配意し、被保険者及び受給者の範囲を含め、制度全般について検討を加える際の課題の1つと認識しているところである。